「見える化」の歴史

解剖 ~ 身体の中が見える
顕微鏡 ~ ミクロの世界が見える
X線 ~ 透けて見える
内視鏡 ~ 胃壁が見える
超音波スキャン ~ 反響で見える
CT ~ 輪切りで見える
MRI ~ 生理現象まで見える
インターネット ~ どこでも見える
人工知能 ~ コンピュータにも見える
次の文献を参考にさせていただきました。
舘野之男「画像診断」中央公論新社
茨木保「まんが医学の歴史」医学書院
百島祐貴「ペニシリンはクシャミが生んだ大発見」平凡社新書
ウィリアム・バイナムほか「Medicine: 医学を変えた70の発見」医学書院
解剖 ~ 身体の中が見える

古代、医療は霊や魔術と結びついた、観念的で非科学的な行為でした。今日のように自然科学に基づいた医療が行われるには、まずヒトの身体について理解しなくてはなりません。死体を切り開いて骨や臓器を観察することが、その第一歩でした。教会が人体解剖を禁じていたため、墓を暴いて非合法に死体を入手していた時代もありました。徐々に解剖の科学的な意義が認められ、同時に広く行われるようになり、人体の仕組みが明らかになったのです。
1543年、ヴェサリウスが人体解剖学書「ファブリカ」を出版。
顕微鏡 ~ ミクロの世界が見える

臓器から組織へ、細胞から分子へ。一歩また一歩、微細なレベルに理解を深めることによって、医学は発展してきました。無数の細胞から身体が成り立っているとか、細菌やウイルスが身の回りにあふれているといったことは、かつて思いもよらないことだったのです。肉眼では見えない世界を顕微鏡でのぞくことから、その進歩が始まりました。
1676年、顕微鏡による観察を基にレーウェンフックが微生物の存在を報告。
X線 ~ 透けて見える

解剖によって体内の構造が明らかになってきました。でも、生きた患者を診察するのに、手当たり次第に切開するわけにはいきません。傷つけずに身体の内部を見る。そんな夢物語が、物理学者レントゲンの偶然の発見により実現しました。未知の光線「X線」と命名された新技術は、発表後すぐに世界的な注目を集め、臨床にも用いられて、骨折などの診断に大きな成果を挙げました。
1895年、レントゲンがX線を発見。
内視鏡 ~ 胃壁が見える

臨床に革命をもたらしたX線ですが、やわらかい組織を見るのは苦手。造影法の研究と並行して、別のアプローチも試みられました。その一つが内視鏡。かつては、まっすぐな筒を口から差し込み、胃の内部を見る実験も行われました。実験台を務めたのは、長い剣を飲み込んでみせる大道芸人だったそうです。その後、ゴム管と豆電球を組み合わせた内視鏡が開発され、胃がんの診断は飛躍的に進歩しました。
1950年、宇治達郎らが内視鏡を開発。
超音波スキャン ~ 反響で見える

X線撮影が光の吸収レベルを基に画像化するのに対し、超音波スキャンは音の反射を頼りに画像化します。戦時中、海中の潜水艦を見つける目的で研究された技術が、戦後、医療に転用されました。胆汁に包まれた胆石を見つけたり、羊水に浮かぶ胎児を観察する上で、X線よりはるかに精細な画像が得られました。
1958年、イアン・ドナルドらが妊婦の子宮の超音波スキャン画像を発表。
CT ~ 輪切りで見える

X線撮影は、3Dを2Dに圧縮するようなもの。骨や臓器をすべて重ね合わせて透視するため、しばしば「何が映っているのか分からない」事態を生じました。前後の組織を取り払って、見たい部分だけ撮影したい。その願いをかなえたのがCTです。X線光源が身体の周りを回転しながら撮影。そこで得られたX線の吸収値をコンピュータで計算します。身体を「小さな立方体の集合」ととらえ、個々の立方体のX線吸収値を割り出し、それを2Dにプロットすると…、まるで身体を輪切りにしたような鮮明な画像ができました。CTのCはコンピュータのCです。
1972年、ハウンズフィールドが開発したCTで患者を撮影。
MRI ~ 生理現象まで見える

「見える化」は、コンピュータの力を借りてさらに発展します。ありのままを撮影して見るだけでなく、撮影したデータからもっと有益な知見を引き出せないのか? その思いに応えたのがMRIです。身体に磁場をかけ、電波を当てて、原子核の動きを検出し、それを基にコンピュータを使って画像化します。設定次第でさまざまな画像を描くことができます。血液や体液の流れ、あるいは筋肉の収縮の様子まで描出。解剖しても得られない情報が得られるようになりました。
1973年、ローターバーがMRIによる撮像法を発表。
インターネット ~ どこでも見える

「見える化」が進むと、「画像をもっと有効利用しよう」というニーズが生まれます。そこで福音となったのがインターネット。デジタル化された医療画像は、インターネットを経由してどこでも手軽に取り出し、見ることができるようになりました。「過疎地でも専門医の診断が受けられる」「育児中の女医が自宅で診断できる」など、たくさんの恩恵をもたらしています。
2014年、エムネスが画像のクラウドストレージを開始。
人工知能 ~ コンピュータにも見える

「見える化」の普及とともに、「たくさんの画像を短時間で正確に見る(診る)」ニーズが生まれます。その一つの解決策が人工知能。画像をスキャンすると、異常が疑われる部位を瞬時に検出します。医師をサポートするツールとして、今後ますます発展するでしょう。
2016年、エムネスが診断支援システムを開発。